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発達障害の神経科学-1
更新日:2019年6月30日
1H-magnetic resonance spectroscopy (1H-MRS)とは通常のMRIマシンを用いてシークエンスを変えることによって、生体内の代謝物の濃度を測定することができる技術です。MRIを利用するので被曝の心配がなくというメリットがある一方で、どのような代謝物でも測定できるわけではありません。安定して計測できる代謝物はGABAやN-acetylaspartate (NAA)など数種類に絞られてしまいます。また、通常は関心領域法と言って興味のあるのうの領域だけを安静時に計測することが一般的です。MRIの磁場の強さと関心領域のサイズは反比例の関係にあります。脳脊髄液には代謝物は含まれませんので、関心領域はできるだけ灰白質だけを含めるように設定しなければならず、そのためには小さくなければなりません。そのためには磁場は強くなければなりませんが、実際には3Tが一般的な限界のようです。したがって、計測できる脳の部位は限られています。今後の技術の進歩によりこの問題が解決されると神経科学にも大きな前進が見られるかもしれません。
ADHD当事者を対象とした1H-MRS研究をまとめると前頭葉の内側の皮質において、幼少期に定型発達よりもADHD当事者でNAA濃度は高く、それが徐々に減少し成人する頃には定型発達と差がなくなるようです。現在までのところ、研究数が不十分でこのような年齢による変化が他の脳領域でも当てはまるのかはわかっていません。脳の内側前頭前野はたくさんの機能がある別々な領域が隣り合っているような構造になっています。なので、簡潔な解釈が難しいです。ただ、NAAがニューロンの密度や活動度を反映することをかんがえれば、脳の内側前頭前野のニューロンの活動は幼いADHD当事者では定型よりも高いということでしょうか。一方で、ASD当事者と対象とした1H-MRS研究をまとめると、同じく内側前頭前野のNAAの濃度が幼少期には小さく、それが年齢とともに定型化するようです。
ASDとADHDが同じ脳領域の同じ物質が異なる方向に異常を示すことは、脳科学研究では比較的まれと言えます。この成長の影響の違いが真の病態生理の違いを反映しているのか、今後の研究が縦断的に行われなければ解決できません。
今後の研究結果が楽しみです!