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発達障害の神経科学-2

ADHDを対象としたresting-state functional MRI (R-fMRI)はこれまで数多くの論文が発表されてきました。R-fMRIというのは安静にしている時の脳のボクセルの血流の時間的な変化をみて(正確にはBOLD 信号と呼ばれる酸素需要を反映する指標)、他の脳領域とどの程度同調しているかを検証する方法です。同調の程度が強いほど脳領域同士は強く結合していると考えます。初期のR-fMRIでは局所の結合を示すregional homogeneityがしばしば検討されました。その後は脳の特定の領域をseedとして他の領域との長距離の結合の強さを見る研究が行われるようになりました。これらの指標をADHDと定型発達で比較するとADHDと定型発達の違いが脳のどこの領域に出るかがわかるのです。しばしば報告された異常は、anterior cingulate cortex (ACC)やposterior cingulate cortex (PCC)と他の脳領域の機能的結合がADHD当事者で定型発達よりも弱いというものです。ACCとPCCはいずれもdefault mode network (DMN)と呼ばれる、何もしていないときに活性化され、課題を実行するときは抑制される脳のネットワークに含まれます。ADHDといえば落ち着きがないというイメージですので、本来は落ち着かなければならないDMNが抑制されないというのは直感的に納得のできる結果でした。しかし、このDMN仮説は全てのデータで再現されたわけではありません。そこで提唱されているのが、脳の中にある機能が異なる複数の巨大なネットワーク(DMNなど)内だけではなく、ネットワーク間のバランスが崩れることが精神疾患の基本的な構造であるという考えです。いくつかの最新の研究では、このネットワーク間のバランスを定量化しADHD当事者でその指標が定型発達とは異なることを報告しています。しかし、ネットワーク間のバランスを定量化する指標が完全には確立されていないためこの仮説も十分には検証されていません。特筆すべきはこれまでの研究をまとめてみると、ADHDで報告された以上はどこの脳部位にも集約されなかったということです。

もう一つ特筆すべき試みがなされました。ニューヨークにあるChild Mind InstituteとNew York Universityが主導で行ったADHD-200というプロジェクトです。これはADHD当事者と定型発達者のR-fMRIデータを数百人分公開し、R-fMRIデータを用いてADHDかTDの区別、ADHDのサブタイプの同定を世界中の研究者に促したのです。偶然よりもはるかに高い正答率を様々な研究が報告しました。しかし、最も正答率が高かったのはMRIスキャン中の頭の動きを用いた解析でした(R-fMRIデータは使わない)。このことは、R-fMRIはADHDの病態生理に関わる異常を捉えることができるものの、頭の動きというごく単純な表現型にすら負ける程度の情報しかないかもしれないということを示唆しています。別な見方をすると、ADHDの病態生理は複雑で異種性が高く、R-fMRIでは捉えきれないという可能性もあります。今後、これまでのR-fMRIとは完全に異なる手法で解析されることによってADHDの病態生理が解明されることが期待されます。

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