• BiPPs

負の螺旋階段

最終更新: 2019年6月30日

自閉スペクトラム症は社会コミュニケーションの障害と反復的常同的行動を中核症状とする発達障害です。近年マスコミで社会コミュニケーションの障害が取り上げられており、自閉スペクトラム症といえばコミュニケーションの障害と認識されている方も多いかと思います。もう一方の中核症状である反復的常同的行動は、俗にいうこだわりだと思っていただければ大きな間違いはありません。前述のようにコミュニケーション障害がよく知られている症状ですので、あの人はこだわりが強いから発達障害かもね、と言って外来を受診されるかたは実は多くはないのです。ただ、最先端の研究ではどちらかというとこの反復的常同的行動に注目が集まっています。外来だけではなく産業医をさせていただいていても、「この人はもう少しこだわりが改善されれば、コミュニケーションも取りやすくなるのになあ」と思うことが実は多いのです。こだわりが強いと自分の感情の切り替えが苦手になるのです。

具体的な例をいくつか挙げさせていただきます。ある会社で働いていらっしゃった方がパワハラの相談でいらっしゃいました。プロジェクトの打ち上げにゴルフに誘われました。打ち上げのゴルフに誘うくらいは社会通念を著しく逸脱した行動とは捉えにくいと思います。ですが、ご相談者の方は日焼けもゴルフも好きではありませんでしたし、打ち上げといえば会社の帰り道の居酒屋と思っていらっしゃったようです。なので、ゴルフに誘われたことに驚かれたようです。なぜ、自分をそのような店に誘ったのかと考えることを繰り返し自問していたようです。そうすると、これは自分を辱めるためだと思えてきてパワハラと考えるようになったそうです。このエピソードには様々な発達障害的特性が散りばめられています。

・まず、相談者の方がゴルフに行きたくないとはっきり言った時点で、誘った本人(今となっては加害者)は空気を読んで撤退すべきだったと思います。このかたの社会コミュニケ−ションスキルが高くなかったことは、エピソードが大きく膨れ上がった原因のひとつです。

・さらに申し上げると、相談者の方の断り方も、言語的コミュニケーションだったのか非言語的だったのか、はっきり伝わったのか、今となってはわかりません。

・相談者の方としても相手の気持ちが分かり切っていないところがあったと思います。恐らくは誘った当事者も嫌がらせをしようとしているのではなく、ご褒美的なニュアンスがあったと理解できればこの事例もそこまで大きくはならなかったでしょう。

・ただ、一番大きな問題は相談者の方が同じこと(誘った上司のこと)を繰り返し考えたことにあると考えています。

残念ながら、人間は同じことをずっと考えていると、心地よい結論が出ないようにできているようです。わたし達はこれを負の螺旋階段と呼んでいます。

1. あの人はなぜ自分をゴルフに誘ったのか

2. 自分がゴルフが苦手だと知っていたのではないか

3. 苦手と知っているのに誘うということは自分を辱めようとしたのではないか

4. 自分を今回辱めようとしたということは、これまでもひょっとしたら自分は不利に扱われてきたのではないか

5. 自分を不利に扱う人は許せない。嫌いだ。パワハラだ。

という流れです。1~5は一見合理的で良く見かける心理です。しかし、よく考えると2以降は1の上に成り立っています。1の質問を自分の中で繰り返さなければ、2以降は生まれなかったかもしれません。つまり、自分はその人のことが嫌いだ、パワハラだという5の結論にはならなかったのかもしれません。

1は仕方ありません。ある程度は、「なんでこうなったんだろう」と考えることは人間の本能的な部分だと思っています。ただ、2以降は抑えることができます。

どのようにして抑えればいいでしょうか?

それにはいくつかの方法があります。

一つ目は、マインドフルネスです。マインドフルネスはとても奥の深い治療法ですのでここで詳細を記載することは行いません。ごく簡単にまとめると、自分の感情ではなく経験や行動に意識を向けるということです。「なぜあの人はこんなことをしたんだ」という感情と距離をおくことで上記の2以降を起こさせないようにするのです。経験や行動の中で最も確実に人間が行っていることは呼吸です。呼吸に注目して自己を客観視し負の螺旋階段を降りていくことをやめるのです。座禅はこの一種と考えてもいいでしょう。

二つ目は、作業療法的なアプローチになります。具体的には、塗り絵や写経です。独創的な作品を作るのは疲れます。ですが、塗り絵を手本どおりに塗るという作業に集中するとむしろ気持ちは晴れることが多いです。悩み事と距離がおけるからです。

三つ目は、運動です。運動をすると当然自分の動作に注目します。例えば、筋トレで自分の思った通りのフォームが取れているか、ヨガできちんとポーズが取れているか、などスポーツをすると自分の感情から行動に意識が向きます。

四つ目は、精神科医による治療になります。これもまた奥の深いことですので、精神科医師に相談してください。

今日は、実は不安や心配の多くは自分が作っていて、それを抑えるために自分の感情ではなくて行動に集中しなければならないという話でした。

9回の閲覧0件のコメント

最新記事

すべて表示

自尊心とプライドの複雑な関係

自尊心が高いがプライドが低い、というと一見何を言っているかわかりにくいですよね。 でも言い間違いではないんです。自尊心とプライドは似ていますが、異なるものなのです。ふたつはどのように違って、それぞれどうすれば健康でいられるのかご説明します。それを理解することで、仕事のパフォーマンスがあがり、人から好かれるようになります。 自尊心とは、文字通り、自分を尊重する心のことです。それは、他者からの評価では

ASDとADHDの合併

自閉スペクトラム症(ASD)は全人口の1%程度が診断を満たす発達障害で、中核症状は社会コミュニケーションの障害と反復的常同的行動です。注意欠如多動症(ADHD)は注意・集中力・オーガナイズ力に問題があり、また過活動・衝動性もその中核症状をなしています。これら中核症状は全く異なる二つの疾患ですが、実は類似している点は多いのです。遺伝子研究では部分的に共通した異常が認められていますし、脳画像研究では脳

知能の得意不得意

知能指数(IQ)という言葉をしばしば見かけるようになりました。メディアで見かけるIQは高ければいいかのような表現ですが、実際にはそこまで単純ではありません。IQの測定法として最も妥当性が高いと考えられているのはウェクスラー成人知能検査(WAIS)と呼ばれているものです。WAISのフルスケールスコアと呼ばれているものが俗にいうIQです。ただ、WAISにはフルスケールの下に14個の下位検査があり、それ

Copyright ©2020 BiPPs inc. All Rights Reserved.
  • Twitter Social Icon
  • Facebookの社会的なアイコン