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感覚症状

最終更新: 2019年6月30日

自閉スペクトラム症(ASD)の症状には社会コミュニケーションの質的障害と反復的常同的行動という中核症状があります。2013年に発行されたアメリカ精神医学会の操作的診断基準であるDSM-5では反復的常同的行動として4つの症状を定義しています。そのうちの一つに感覚症状があります。感覚症状には、過敏と鈍麻があり、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の五感だけではなく前庭覚なども含まれます。感覚症状の有病率は報告により様々ですが、ある報告によるとASDと診断された人では感覚症状の有病率は95%を超えるようです。DSM-IVでは定義されていなかった感覚症状がDSM-5では診断基準に入った理由は、高い有病率が理由だと思います。ですが最近の研究では感覚症状があることで、発達初期の外界からの情報の入力を異質なものとし、そのために社会との交流(社会コミュニケーション)の発達が異質になるという仮説があります。実際に、国際的一流紙であるCellに自閉スペクトラム症のモデルマウスにおいて感覚異常が脊髄のGABAの異常を介して社会コミュニケーションの発達を妨げるという報告もなされています。産業医としての経験上でも、オフィスのライトが蛍光灯でブルーライトを多く含んだものから、ブルーライトが少ない白色灯に変更した方が社内でのイライラが減るということはありますし、夏の汗の匂いや香水の匂いが集中力を下げるということはよく経験します。このように感覚症状が社会コミュニケーションの障害の根底をなすという可能性を否定はできないのです。

興味深いことに、注意欠如多動症という、その名の通り注意力。集中力、オーガナイズ力に困難があり、多動性や衝動性を特徴とする発達障害においても、ASD的な社会性の障害や感覚症状が高率に合併することが知られています。ではADHD当事者で見られるASD症状と感覚症状はASD当事者で見られるこれらと違うのでしょうか?ここはまだ研究が進んでいる段階です。はっきりしたことは言えませんが、類似した部分が特に脳の結合に関しては多く見られるようです。

まとめると、ASDだとしてもADHDだとしても、感覚障害はしばしば見られる症状です。もしかすると感覚障害が引き金となって社会コミュニケーション症状が悪化している可能性もあるかもしれません。そうすると、誰かがイライラしている、人間関係がうまくいかないときにオフィスの環境を整えること周辺ではなくむしろ根源的な解決方法のひとつかもしれません。

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