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ASDとADHDの合併

更新日:2019年8月12日

自閉スペクトラム症(ASD)は全人口の1%程度が診断を満たす発達障害で、中核症状は社会コミュニケーションの障害と反復的常同的行動です。注意欠如多動症(ADHD)は注意・集中力・オーガナイズ力に問題があり、また過活動・衝動性もその中核症状をなしています。これら中核症状は全く異なる二つの疾患ですが、実は類似している点は多いのです。遺伝子研究では部分的に共通した異常が認められていますし、脳画像研究では脳の結合の異常が類似していることが知られています。さらに、臨床的にもASDと診断された人の30-50%がADHDの症状をもち、逆もまた同じ程度であると考えられています。実際に2013年に発行されたアメリカ精神医学会が発行したDSM-5では、これまで認められてこなかったASDとADHDの共診断が認められています。さらに当事者あるいは保護者(未成年などの場合)がつけたASDの重症度とADHDの重症度のうちのいくつかは強い正の相関があることが知られています。

ASDとADHDが共通する上で大事な点が一つあります。それは、ASDとADHDが共存した場合には社会的適応度が下がるということです。つまり1+1が2ではなく3以上になってしまうのです。具体的には、ASD的特性で相手の気持ちがわかりにくい人が、ADHD的に衝動的に行動すると状況がさらに悪化することは予想がつきます。また、あるいはこだわりが強い人が思い込みで動きすぎると(過活動)、多方面と敵対関係となり収拾がつかなくなりそうです。

実際に精神医療を行なっていても、ASD特性とADHD特性が顕著な方をしばしば見かけます。そのような方の場合には治療期間中にASD特性が強く前面に出たり、ADHD特性が前面にでたりと症状が変わって見えて治療に難渋することも多いのです。また、ASDとADHDの共診断の率が高く重症度が互いに相関していることからも、どちらか一方だけという人は少ないです。これはおそらく病院を受診する人だけではなくオフィスで働いている方でも同様だと考えています。そこで、ASDであるかADHD であるかということをはっきりさせることはあまり意味を持たず、診断とは関係なく病態生理に応じて相談に乗り治療を進めていくことがご本人の困難感の改善に貢献できる方法だと考えています。

病態生理以上に大切なのは適切な環境を提供することです。ASDであれADHDであれその合併であっても、本人がストレスなく過ごせる本人に合った環境を提供することが何より本人の生産性を向上させます。具体的には、オフィスの人間関係や、音・光・匂いなどを落ち着くものにする、十分な睡眠・休息が取れるようにする、情報の入力・出力方法を本人にあったものにする、など枚挙に遑がありません。

ASDであってもADHDであっても、疾病認識の向上が受診率を上昇させ有病率を高めています。受診するまえに、職場の環境調整で改善できる症状は多くあると考えています。

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